この曲も息の長い、昔ながらの童謡のひとつです。
作詞を担当された香山 美子さんは、児童文学作家であり、童謡詩人でもあります。現在までに、とてもたくさんの作品が残されています。
絵本の表紙を見ると、私が子どもの時に読んだものがたくさんあり、
とても懐かしく思いました。
作詞した童謡があまりにもたくさんあって、
誰が初回のレコーディングで歌ったのか、という記録がきちんと残せなかったものもあるとうかがいました。
おはなしゆびさんの歌が作られる段階で、作詞家、作曲家それぞれに
この曲には、どのような”ねらい”があったのかを明確にされています。
【作曲家 湯山 昭さんの「おはなしゆびさん」のねらい】
池田小百合 なっとく童謡・唱歌より
“当時「指の歌」という「わたしのとうさま えらいかた・・・という有名な歌があったんですよ。それを武井ディレクターが嫌がって、「父様は偉いかもしれないけれどね、戦後の民主主義の中でこれは合わない」とね。「いかにも古く封建的でしょう。新しい指の歌を作りましょう。」というわけで。それで香山さんの詩で、「このゆびパパ ふとっちょパパ・・・」となったわけですよ”。
【作詞家 香山美子さんの「おはなしゆびさん」のねらい】
(『日本児童文学』(1999年9-10月号/日本児童文学者協会編集・発行)の<子どもの歌をふりかえって>の座談会にて)。
“いろいろと考えている中で、一番最初に、ちいさい指を『ぼく』とするのはよそうと思ったんです。子どもは、自分は小さいと思っている筈ないから、と。次にそれぞれの社会性があるということが浮かびまして、お父さんはお父さんの社会性があると。それぞれの社会性を活して、それぞれ一人一人が独立して集まっているのが家族だと。そのように考えましたら、割合に簡単にできましてね”
作曲の湯山 昭先生が、楽曲についてのねらいではなく
戦後の民主主義の中での、新たな価値観についてお話されているのが
とても興味深いです。
その新たな価値観につりあうような、新しいサウンドでの指の歌を作られたのだと思います。
楽しくて、ワクワク気持ちが弾んでしまう曲を作ってくださっています。
半世紀にわたって、この曲が古くならずにずっと歌い続けられている理由は
作品を作った先生方の先進的な考えと価値観を込められた作品であるから
ということがよくわかります。
この曲は、家族をモチーフにしたかわいい指人形をはめて、
子どもに歌い聞かせること
また、間奏と後奏がちょっと弾きにくくて、伴奏担当になってしまった時には
そこにばかりフォーカスしてしまうこともあるかと思います。
でもそんな時は、この曲のねらいはなんであるのか、という部分に立ち返って
みることが必要なのかもしれません。
お父さんは、お父さんだからっていうだけで偉いわけではなく
たとえ赤ちゃんはまだ、一人で自分のことが出来ずたくさんのお世話を必要としていたとしても
それぞれが一人ずつ独立した人間であるということ。
このような本当に素晴らしい価値観でこの曲が作られているということは
現代における令和という時代においても、広く伝わってほしいお話です。
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